奥多摩町の奥多摩湖畔に整備されている自然散策路は、小河内ダムから山のふるさと村まで続く全長約12キロメートルのウォーキングコースで、正式名称を「奥多摩湖いこいの路」といいます。この道は森林セラピー基地に認定された森を歩きながら、湖上に浮かぶ麦山の浮橋を渡れるコースとして知られています。高低差はわずか36メートルほどしかなく、本格的な登山装備がなくても歩き通せる手軽さが特徴です。2007年4月に開通し、小河内ダムのたもとにある水と緑のふれあい館を起点に、湖畔の森を抜けて山のふるさと村へと至ります。全行程を歩き通すとおよそ4時間から5時間かかるため、体力や同行者に合わせて麦山の浮橋までの折り返しコースを選ぶ人も少なくありません。この記事では、コースの詳しい特徴からアクセス方法、麦山の浮橋の歴史、森林セラピーとしての効果、季節ごとの見どころまで、いこいの路を歩くうえで知っておきたい情報をまとめます。

奥多摩湖いこいの路は全長12キロメートル、高低差36メートルの歩きやすい散策路
奥多摩湖いこいの路は、ダム湖畔の斜面に切り開かれた道でありながら、高低差が約36メートルしかありません。舗装はされていない未舗装路ですが、道幅や足場はしっかり整備されており、登山初心者でも歩きやすい道になっています。コースの左手には木々の間から奥多摩湖の水面がのぞき、右手には天然林やスギ・ヒノキの混交林が広がります。歩を進めるごとに変わる木々の表情と、静かに揺れる湖面の光を眺めながら歩けるのが、このコース最大の魅力です。
正式名称を小河内貯水池という奥多摩湖は、標高約530メートルに位置し、総貯水容量は約1億9000万立方メートルにおよぶ、水道専用の貯水池としては国内でも有数の規模を誇ります。東京都西多摩郡奥多摩町から山梨県北都留郡の丹波山村・小菅村にまたがる広大な湖で、2006年3月には「ダム湖百選」にも選定されました。この湖の大きさを間近に感じられることも、いこいの路を歩く醍醐味のひとつです。
通行できる期間は4月第2週の金曜日から11月頃まで
いこいの路は通年で歩けるわけではありません。歩行が可能な期間は例年4月の第2週の金曜日から11月頃までで、冬季は積雪や路面の凍結、落石の危険があるため閉鎖されます。冬季閉鎖はおおむね12月上旬から翌年4月中旬頃までとされていますが、年によって変動するため、訪問前には東京都水道局や奥多摩観光協会の公式情報で最新の通行状況を確認しておくと安心です。台風や大雨のあとも一時的に閉鎖されることがあるため、天候が不安定な時期はとくに注意してください。
奥多摩町は2008年に森林セラピー基地に認定、ウォーキングでストレスホルモンが15.8パーセント減少
奥多摩町は2008年に「森林セラピー基地」として認定を受け、翌2009年には5つのセラピーコースが正式にグランドオープンしました。森林セラピーとは、単なる森林浴の感覚的な癒やしにとどまらず、森が心身にもたらす効果を科学的に検証したうえで、健康維持・増進や病気の予防に役立てようという取り組みです。全国各地の森林セラピー基地では生理・心理実験によってストレス指標や血圧、免疫機能への効果が計測されており、奥多摩もその実験対象地のひとつとして選ばれてきました。
実際の研究データでは、森の中で風景を眺めるだけでもストレスホルモンであるコルチゾール濃度が約13.4パーセント減少し、森の中をゆっくりウォーキングした場合にはおよそ15.8パーセントも減少したという結果が報告されています。森林浴によって免疫力の指標となるナチュラルキラー細胞の活性が高まったり、血圧が安定したりする傾向も確認されています。デスクワークやスマートフォンによる情報過多で神経が張り詰めがちな現代人にとって、こうした森林セラピーは心身をリセットする貴重な機会になるでしょう。
奥多摩町内には5つの森林セラピーロードがある
奥多摩町内には、いこいの路のほかにも4つの森林セラピーロードが認定されています。日本で初めて森林セラピー専用ロードとして認定された「香りの道・登計トレイル」は、JR奥多摩駅から氷川渓谷を経て徒歩約20分でアクセスできる約1.3キロメートルの短いコースです。ヨガや座禅ができる広場や、セルフカウンセリング用のステーションが設けられているほか、車椅子でも利用できるモノレールも設置されています。そのほか、渓谷沿いを歩く「鳩ノ巣渓谷遊歩道」、旧甲州街道の趣を残す「奥多摩むかし道」、一般登山道を活用した「百尋ノ滝探勝路」があります。これらのなかで、いこいの路は湖畔を歩ける唯一のフラットなロングコースで、水辺の景観と森林浴を同時に楽しめる点が最大の魅力です。
小河内ダムを起点に湖畔を歩き、麦山の浮橋を渡って折り返すルートが人気
いこいの路の起点は、小河内ダムの堰堤南岸側にある入口です。小河内ダムは1957年に完成した重力式コンクリートダムで、東京都民の水がめとして知られています。ダムの堰堤を渡りながら眺める奥多摩湖の水面は、それだけでも一見の価値があります。ここから森の中へ分け入り、湖畔に沿ってアップダウンの少ない道を進んでいくのが基本ルートです。
コースを最後まで歩くと、終点は自然体験施設「山のふるさと村」になります。ここは東京都が設置する公園で、キャンプ場や体験学習施設、レストランが整備されており、歩き終えた後の休憩や食事に利用しやすい場所です。もっとも、往復で山のふるさと村まで歩くと相当な時間と体力を要するため、日帰りで気軽に楽しみたい場合は、途中で折り返す人も多くいます。
麦山の浮橋を渡って小河内神社バス停へ抜けるルートが定番
人気の折り返しルートのひとつが、麦山の浮橋(ドラム缶橋)を渡って対岸に出て、小河内神社バス停から西東京バスに乗車し、奥多摩湖バス停や奥多摩駅へ戻るコースです。小河内ダムから麦山の浮橋までは、サイグチ沢にかかる橋を渡りながらなだらかな道を進む行程で、比較的短時間で歩き切ることができます。往復の総距離や体力、同行者の年齢層に応じて、無理のない範囲で行き先を決めるとよいでしょう。
道中にはクルミの木やアケビなど、野生動物の好物となる実がなる木々も多く見られます。季節によっては野鳥のさえずりや、リスなどの野生動物の気配を感じることもあり、視界が開けて湖面がきらめく場所と、うっそうとした森の中を進む場所が交互に現れるため、長い距離でも飽きずに歩けます。
麦山の浮橋は全長約220メートル、通称「ドラム缶橋」として親しまれている
いこいの路を歩くうえで象徴的な存在となっているのが、麦山の浮橋です。地元では古くから「ドラム缶橋」の愛称で親しまれています。この橋は、小河内ダムの完成によって出現した奥多摩湖の湖上に架けられた浮橋で、全長は約220メートルにおよびます。ダム建設によって旧来の道が水没し、対岸まで歩いて渡れなくなったことから、その代替として設置されたのがこの浮橋でした。奥多摩湖にはこうした浮橋が2か所架けられており、麦山の浮橋はそのうちのひとつです。
「ドラム缶橋」という愛称は、かつて実際にドラム缶を並べてその上に板を渡し、橋として使っていたことに由来します。現在ではドラム缶そのものは使われておらず、ポリエチレンや発泡スチロールを用いた浮力体によって橋が浮かべられています。湖面に浮かぶ構造のため、渡るときには足元がゆらゆらと揺れ、独特の浮遊感を味わえるのがこの橋の魅力です。湖を渡る風を受けながら、眼下に広がる深い緑色の湖水を見下ろす体験は、ほかのハイキングコースではなかなか味わえません。
渇水期には通行止めになることがある
麦山の浮橋は、湖の水位に大きく影響を受ける構造物です。渇水期などで小河内貯水池の水位が大きく低下すると、橋の通行が危険と判断され、通行止めになることがあります。訪れる時期によっては渡れない可能性があるため、事前に東京都水道局や奥多摩観光協会の公式サイトで最新の通行状況を確認しておくと安心です。
そばに鎮座する小河内神社は旧小河内村の9社11柱を合祀している
麦山の浮橋のすぐそばには「小河内神社」が鎮座しています。この神社は、小河内ダムの建設によって湖底に沈んだ旧小河内村にあった9つの社、11柱の祭神を遷座・合祀して創建されました。ふるさとを水底に沈めるという大きな犠牲を払って完成した奥多摩湖とダムの歴史を今に伝える、静かな場所です。浮橋を渡ったあとにこの神社に立ち寄ってから帰路につくのも、いこいの路を歩く際の楽しみ方のひとつです。神社のそばには小河内神社バス停があり、西東京バスで奥多摩湖畔や奥多摩駅方面へ戻ることができるため、周遊コースの結節点にもなっています。
アクセスは奥多摩駅からバスで約20分、起点は水と緑のふれあい館
奥多摩湖いこいの路の起点となる小河内ダム、水と緑のふれあい館へは、公共交通機関と自動車のいずれでもアクセスできます。
電車・バスを利用する場合は、JR青梅線の終点である奥多摩駅を目指します。都心からはJR中央線・青梅線を乗り継いで向かうのが一般的です。奥多摩駅前のバス乗り場からは、「奥多摩湖」「鴨沢西」「丹波」「小菅の湯」「峰谷」「留浦」方面行きなど複数系統の西東京バスが発着しており、いずれのバスに乗っても約20分で「奥多摩湖」バス停に到着します。バス停から水と緑のふれあい館、いこいの路の入口までは徒歩数分です。本数はそれほど多くないため、事前に時刻表を調べておくと当日の計画が立てやすくなります。
自動車を利用する場合は、青梅街道から国道411号線に入り、山梨方面へ向かって進めば奥多摩湖畔に到着します。休日は行楽シーズンを中心に道路が混雑することがあるため、時間に余裕を持って向かうとよいでしょう。
駐車場は無料だが紅葉シーズンは早朝から満車になりやすい
駐車場については、水と緑のふれあい館に隣接する無料駐車場のほか、奥多摩町が管理する水根駐車場、大麦代駐車場が利用できます。紅葉シーズンや行楽シーズンの週末は、ふれあい館隣接の駐車場が早い時間帯に満車となることも多く、その場合は少し離れた水根駐車場や大麦代駐車場の利用が案内されます。混雑が予想される時期には、なるべく早い時間に到着するのがおすすめです。
起点にある「奥多摩 水と緑のふれあい館」は東京都水道局が運営するPR施設で、水道水源林や小河内ダムの歴史、水源地の自然について学べる展示が用意されています。開館時間は午前9時30分から午後5時までで、休館日は水曜日(水曜が祝日の場合は翌平日)と年末年始(12月28日から1月4日まで)です。トイレや売店も整っているため、いこいの路を歩く前後の準備や休憩に立ち寄っておくと安心です。
季節ごとに表情を変える湖畔、桜は約3000本、紅葉は10月下旬から見頃
いこいの路の魅力は、季節ごとに表情を変える湖畔の自然にあります。
春には新緑が芽吹き、若葉の淡い緑と湖の深い緑とのコントラストが美しい季節を迎えます。木々の間から差し込む柔らかな日差しの中を歩けば、冬の間にこわばった心身がほぐれていく感覚を味わえるでしょう。
夏は木々の緑が一段と濃くなり、うっそうとした森が強い日差しを遮ってくれるため、比較的涼しく歩けます。湖から吹く風も心地よく、市街地の暑さから逃れて森林浴を楽しみたい人にはとくにおすすめの季節です。
多くのハイカーに人気なのが秋の紅葉シーズンです。例年10月下旬頃からカエデやコナラ、イチョウなどが少しずつ色づき始め、11月中旬頃にかけて紅葉が見頃を迎えます。周囲の山々を彩る赤や黄色の紅葉が湖面に映り込み、湖畔から眺める景色と、奥多摩周遊道路から見下ろす景色とでは、また違った趣を楽しめます。カメラを持って訪れる人も多く、紅葉期の休日は多くのハイカーや観光客で賑わいます。
冬季はコース自体が閉鎖されるため歩くことはできませんが、その分、閉鎖期間が明ける4月第2週の金曜日以降に訪れると、比較的空いた状態で静かな新緑の道を楽しめることもあります。
いこいの路の開通時期と重なるのが、奥多摩湖畔の桜のシーズンです。奥多摩湖周辺にはソメイヨシノや山桜、大山桜、大島桜など約3000本もの桜が植えられており、例年4月上旬から中旬にかけて湖畔一帯を淡いピンク色に染め上げます。湖面に映り込む桜と、周囲の山肌を染める桜が同時に楽しめるのが奥多摩湖ならではの魅力で、大麦代駐車場付近からの眺めはとくに見事だと評判です。4月中旬になると、ソメイヨシノや山桜、色の濃い大島桜が次々と咲き継ぎ、ダム湖畔の斜面を薄桃色に彩ります。いこいの路の開通直後に訪れれば、桜と新緑の森林浴という、この時期ならではの二重の癒やしを味わえます。
季節ごとに異なる魅力を持ついこいの路ですが、共通して言えるのは、湖と森という2つの自然要素を同時に味わえるという点です。単なる登山道でも単なる湖畔遊歩道でもなく、その両方の魅力を兼ね備えている点が、ほかの東京近郊のハイキングコースとの違いです。
服装はトレッキングシューズが基本、ツキノワグマ対策に熊鈴を携帯したい
いこいの路は比較的整備された道ですが、正式には登山道に準ずる自然歩道であることを念頭に置いて準備したいところです。舗装されていない未舗装路で、雨のあとはぬかるみや滑りやすい箇所も出てくるため、スニーカーよりもトレッキングシューズやハイキング向けの靴を選ぶと安心です。服装も、動きやすく汗や汚れを気にしなくてよいアウトドア向けの服装が適しています。
このコースはダム湖畔の急峻な山の斜面を切り開いて作られているため、道の脇が斜面になっている箇所も多くあります。落石や転落の危険がある場所もあるので、脇見をしながら歩いたり、道からはみ出したりしないよう注意してください。とくに小さな子どもを連れている場合は、手をつなぐなど目を離さないようにしましょう。
コース全長は12キロメートルにおよぶため、体力に自信のない人や小さな子ども連れの場合は、無理に最後まで歩こうとせず、麦山の浮橋までの折り返しコースなど、自分の体力に合わせた区間を設定することが大切です。歩き通せなくなったら早めに引き返すという判断も、安全に楽しむためには欠かせません。
飲み物や軽食、雨具も忘れずに持参してください。コース途中には自動販売機やコンビニのような施設はほとんどないため、水分補給用の飲料は事前に用意しておく必要があります。台風や大雨のあとは路面状況が悪化したり、コース自体が通行止めになったりすることがあるため、訪問前には最新の気象情報とあわせて、東京都水道局や奥多摩観光協会の公式情報で通行可否を確認しておくと安心です。
虫よけスプレーや日焼け止め、季節によっては防寒着も、快適に歩くための準備として検討したいところです。スマートフォンの電池残量や地図アプリのオフライン利用可否も、山間部では電波が不安定になることがあるため、事前に確認しておきましょう。
奥多摩湖周辺はツキノワグマの生息エリアに含まれており、近年も目撃情報や人的被害の報告が出ています。いこいの路のように山中を長時間歩くコースでは、熊鈴やラジオなど音の出るものを携帯し、こちらの存在を早めに知らせながら歩くとよいでしょう。奥多摩町は「獣害報告LINEアプリ」などを通じて、当日までの目撃情報を確認できる仕組みも用意しているため、訪問前にチェックしておくと安心です。
終点「山のふるさと村」は面積32ヘクタール、キャンプ場やログケビンを備える
いこいの路を最後まで歩き切った先にあるのが、正式名称を「東京都立奥多摩湖畔公園 山のふるさと村」という自然ふれあい施設です。地元や利用者からは「山ふる」の愛称で親しまれており、秩父多摩甲斐国立公園内、奥多摩湖に注ぎ込むサイグチ沢沿いに広がる面積約32ヘクタールの公園です。1990年10月にオープンして以来、都民をはじめ多くの人々に自然体験の拠点として利用されてきました。
園内にはビジターセンターやクラフトセンター、レストランのほか、テントサイトとログケビンを備えたキャンプ宿泊施設が整っています。テントサイトは25区画あり、それぞれに共同炊事棟が設けられています。宿泊施設としては、8人用のログケビンが4棟、4人用のログケビンが12棟用意されており、キッチンや温水洗面所も備わっているため、初めてのキャンプでも快適に過ごせます。夏場には共同シャワー(15時から21時、冬期は閉鎖)も利用できます。
園内のレストラン「ごはんカフェやませみ」では、地元の旬の食材を活かしたメニューが提供されており、BBQ用の食材販売や、キャンプ宿泊者向けの夕食・朝食、弁当の提供も行っています。いこいの路を歩き終えたあとに、温かい食事でひと息つくのにぴったりの場所です。
山のふるさと村へは、JR奥多摩駅から車でおよそ40分の距離にあり、奥多摩駅や最寄りのバス停からの無料送迎サービスも用意されています。いこいの路を歩いてアクセスするだけでなく、車やバスで直接訪れてキャンプやビジターセンターの見学を楽しむという利用の仕方もできます。ロングコースを歩き切る自信がない場合でも、山のふるさと村を目的地として車で訪れ、園内のトレイルを軽く散策する楽しみ方も可能です。
奥多摩湖は小河内ダム建設で1957年に完成、660世帯が湖底に沈んだ歴史を持つ
奥多摩湖いこいの路や麦山の浮橋を語るうえで欠かせないのが、この湖がどのようにして生まれたのかという歴史的背景です。奥多摩湖は自然の湖ではなく、多摩川をせき止める小河内ダムの建設によって誕生した人造湖です。東京都民の水がめとして、現在も首都圏の暮らしを支え続けています。
ダム建設の構想は昭和初期にさかのぼります。1926年に当時の東京市がダム建設候補地の調査を開始し、1932年に具体的な計画が持ち上がりました。しかし建設予定地には多摩川沿いの小河内村が広がっており、村ごと水没させる計画に対して、1931年に村側は絶対反対の姿勢を表明しました。その後、長年にわたる交渉と補償問題の協議が続けられ、東京市(現・東京都)と小河内村との間でようやく話がまとまったのは1938年の夏でした。
同年11月に建設工事が始まったものの、戦争による資材や人手の不足で工事は長期間中断を余儀なくされました。着工から19年もの歳月をかけて、小河内ダムが竣工したのは1957年11月26日のことです。このダムの完成により、多摩川沿いに広がっていた旧小河内村の集落の大部分が湖底に沈みました。移転を強いられたのは、小河内村の660世帯・約3786人に加え、隣接する山梨県側の村も含めた945世帯におよびます。工事の過程では87名の犠牲も出ており、奥多摩湖は多くの人々の故郷と、多くの命の上に成り立っている貯水池でもあります。
湖岸に鎮座する小河内神社は、こうして水底に沈んだ旧小河内村にあった9つの社、11柱の祭神を遷座・合祀して創建されたものです。麦山の浮橋を訪れた際には立ち寄って、この地に刻まれた歴史に思いを馳せてみてください。静かに水をたたえる奥多摩湖の穏やかな景色の裏には、多くの人々の故郷が沈んでいるという事実を知ることで、いこいの路を歩く体験も一段と深いものになるでしょう。
もうひとつの浮橋「留浦の浮橋」と赤い峰谷橋も見どころ
奥多摩湖には、麦山の浮橋のほかにもうひとつ「留浦の浮橋」と呼ばれる浮橋が架かっています。全長は約212メートルで、麦山の浮橋とほぼ同規模の構造を持ちます。こちらもかつてはドラム缶を浮力材として使用していたことから「ドラム缶橋」と呼ばれてきた歴史を持ち、現在はポリエチレンや発泡スチロールの浮子に置き換えられています。留浦の浮橋は誰でも自由に渡ることができ、麦山の浮橋よりも静かな里山の雰囲気を味わえるスポットとして知られています。いこいの路とあわせて時間に余裕があれば、こちらの浮橋にも足を延ばしてみると、奥多摩湖の違った表情を発見できるでしょう。
両者の違いを整理すると、以下のようになります。
| 項目 | 麦山の浮橋 | 留浦の浮橋 |
|---|---|---|
| 全長 | 約220メートル | 約212メートル |
| 愛称 | ドラム缶橋、めがね橋 | ドラム缶橋 |
| 現在の浮力材 | ポリエチレン・発泡スチロール | ポリエチレン・発泡スチロール |
| 特徴 | いこいの路の折り返し地点として利用されやすい | 静かな里山の雰囲気を楽しめる |
湖畔をドライブや周遊する際に目を引くのが、留浦エリアにある真っ赤な鉄橋「峰谷橋」です。1956年に開通したこの橋は、深緑の山肌と湖面を背景に鮮やかな朱色が映え、奥多摩湖を代表するフォトスポットのひとつになっています。いこいの路を歩きながら、あるいは奥多摩周遊道路をドライブしながら、この峰谷橋の存在感ある姿を眺めるのも奥多摩湖観光の楽しみ方のひとつです。
麦山の浮橋は、その揺れる足場と全長220メートルという規模から、SNS映えするフォトスポットとしても近年注目を集めています。「めがね橋」とも呼ばれることがあり、奥多摩の自然を全身で感じられる撮影スポットとして多くのハイカーやカメラ愛好家が訪れています。
森林セラピーガイドツアーは1名から申し込み可能、2週間前までに要相談
いこいの路を含む奥多摩の森林セラピーロードは、個人で自由に歩くこともできますが、より深く森の効能を味わいたい場合には、地元の「おくたま地域振興財団」が提供するガイド付きの森林セラピーツアーを利用するという選択肢もあります。専門のセラピーガイドが同行し、森の中でのリラックス法や五感を使った歩き方をレクチャーしてくれるため、初めて森林セラピーを体験する人でも安心して参加できます。
プログラムには、基本となるガイドウォークのほか、森林ヨガやそば打ち体験、陶芸体験といった多彩なサブプログラムが用意されています。1名から申し込めるプライベートツアーもあり、オーダーメイドでプログラムを組んでもらうことも可能です。申し込みの際は、原則として2週間前までに相談する必要があります。1つの班につきガイド1名が5名までの参加者に対応する形式が基本で、参加人数が少ないほど1人当たりの参加費用は高くなる傾向にあるといいます。具体的な料金やツアー内容の詳細は時期によって変動する可能性があるため、おくたま地域振興財団の公式サイトで最新情報を確認したうえで申し込むとよいでしょう。
自分のペースで自由に歩きたい人はいこいの路を個人で散策し、じっくりと森の効能を学びながら歩きたい人はガイドツアーに参加するというように、目的に応じて楽しみ方を選べる懐の深さも、奥多摩の森林セラピーの特徴です。
奥多摩湖いこいの路は日帰りで森林セラピーと歴史を同時に味わえるコース
奥多摩湖いこいの路は、東京都心から電車とバスで気軽にアクセスできながら、深い森と静かな湖という都会では味わえない自然を楽しめる貴重なコースです。全長12キロメートル、高低差の少ない歩きやすい道は、本格的な登山経験がない人でも自分のペースで自然散策を楽しめる懐の深さを持っています。
科学的にもリラックス効果が裏付けられている森林セラピー基地としての奥多摩の森を歩き、湖面を渡る風を感じながら進む道のりは、日々の疲れをほどいてくれるはずです。道中のハイライトとなる麦山の浮橋、通称ドラム缶橋では、湖上でゆらゆらと揺れる独特の感覚を味わい、ダム建設の歴史を今に伝える小河内神社にも立ち寄れます。
アクセスのしやすさと豊かな自然体験、そして歴史の重みを併せ持つ奥多摩湖いこいの路は、日帰りのリフレッシュ旅行先として、また本格的なウォーキング・森林セラピー体験の入り口として、多くの人におすすめできるコースです。桜咲く春、涼やかな夏、色づく紅葉の秋と、季節ごとにまったく違う顔を見せてくれるのも大きな魅力で、何度訪れても新しい発見があります。
小河内ダムから麦山の浮橋までの手軽な往復コースにするか、山のふるさと村まで歩き通す本格的なロングコースにするか、あるいはガイド付きの森林セラピーツアーに参加してじっくりと森の恵みを味わうか、楽しみ方の選択肢が幅広いこともこのコースの魅力です。訪れる前には天候や通行状況、熊の目撃情報といった最新の安全情報を確認したうえで、季節や体力に合わせてルートを選びながら、奥多摩湖畔の静かな森を歩いてみてください。都心からわずか2時間ほどの距離に、これほどの自然と歴史が詰まった場所があることに、驚く人も多いはずです。









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