渋谷リバーストリートは、東急東横線の廃線跡を活用した全長約600メートルの遊歩道で、鉄道遺産と再生した渋谷川の水辺景観を同時に楽しめるウォーキングコースです。2018年9月に渋谷ストリームの開業と同時に誕生し、かつての高架橋を支えた支柱や枕木の再利用、旧並木橋駅をモチーフにしたオブジェなど、東横線の記憶を随所に感じられるのが大きな特徴となっています。スクランブル交差点の喧騒からわずかに離れた水辺の道は、都心とは思えない落ち着いた空間で、鉄道ファンはもちろん、街歩き好きや写真愛好家にも人気を集めています。本記事では、渋谷リバーストリートの成り立ち、鉄道遺産の見どころ、ウォーキングコースの区間別ポイント、周辺エリアへの拡張プランまで、散策に役立つ情報を丁寧に解説します。渋谷の歴史と再生の物語をたどりながら、心地よい一日の散策プランを組み立てるための参考にしてください。

渋谷リバーストリートとは:廃線跡に整備された渋谷川沿いの遊歩道
渋谷リバーストリートとは、東急東横線の旧地上線跡地に整備された、渋谷川沿いの遊歩道のことです。2018年9月、複合施設「渋谷ストリーム」の開業と同時に誕生し、渋谷ストリームから南東方向へ、渋谷ブリッジ手前の並木橋まで約600メートルにわたって続いています。
このエリアはかつて、東急東横線の渋谷駅から代官山駅までの地上区間でした。2013年3月、東京メトロ副都心線との直通運転開始に伴い、東横線渋谷駅は地下化され、地上を走っていた高架線は廃止されました。その跡地の一部を再活用して整備されたのが、渋谷リバーストリートです。
遊歩道はA区間(金王橋〜八幡橋)、B区間(八幡橋〜徒歩橋)、C区間(徒歩橋〜並木橋)の3区間に分かれており、それぞれ異なる雰囲気を持っています。ゆっくり歩いた場合でも所要時間は20〜25分程度で、日常の散歩から観光ルートの一部まで、幅広い使い方ができます。
「渋谷リバーストリート」という名称は公募で決定されたもので、310件もの応募の中から選ばれました。「渋谷川(Shibuya River)沿いに伸びる通り(Street)」という意味が込められており、川と街を結ぶ通路としての性格をよく表しています。遊歩道は無料で開放され、24時間いつでも歩くことができます(一部のイベントスペースや商業施設の営業時間は除きます)。
東急東横線の歴史と廃線跡が生まれた背景
渋谷リバーストリートを理解するには、東急東横線の歩みをたどることが欠かせません。東横線の前身である東京横浜電鉄は、1927年(昭和2年)8月28日、丸子多摩川駅(現・多摩川駅)から渋谷駅までの区間で営業を開始しました。以来、東横線は渋谷と横浜を結ぶ大動脈として、長きにわたって首都圏の通勤・通学を支えてきました。
渋谷駅は開業当初から高架駅として整備されており、渋谷川に沿う形で高架橋が延びていました。1964年(昭和39年)には東京オリンピック開催に向けた大規模な改装が行われ、後に「かまぼこ屋根」として親しまれる、アーチ型の特徴的な屋根が完成しました。半円筒形のアーチが連なるこの屋根は、渋谷の顔の一つとして多くの利用者の記憶に刻まれています。
時代は流れ、2000年代に入ると東急東横線と東京メトロ副都心線の直通運転計画が具体化しました。直通を実現するためには副都心線との接続が必要で、そのためには渋谷駅を地下化しなければなりませんでした。こうして2013年(平成25年)3月16日、東急東横線の渋谷〜代官山間の地上区間は廃止され、85年以上にわたって渋谷の空を走り続けた高架線は、その役目を終えました。
廃線後の活用は大きな課題となりました。単純に解体・撤去するのではなく、渋谷の新たな魅力を生み出す場として再生させようという機運が高まり、その答えの一つとして整備されたのが渋谷ストリームおよび渋谷リバーストリートです。廃線から約5年の歳月をかけて誕生した遊歩道は、鉄道の記憶を刻みつつ、新しい都市の顔として生まれ変わりました。
渋谷リバーストリートで楽しむ鉄道遺産:支柱・枕木・かまぼこ屋根の見どころ
渋谷リバーストリートの最大の魅力は、随所に散りばめられた鉄道遺産です。設計コンセプトには「鉄道の記憶を残す」という方針が掲げられ、廃材や遺構が工夫を凝らした形で活用されています。
高架橋の支柱に残る保線ナンバリング
かつて東横線を支えていた高架橋の支柱の一部が、遊歩道上のオブジェとして残されています。注目すべきは、ただ遺構を残しているだけでなく、現役時代に保線作業で使われていた番号(ナンバリング)が支柱にそのまま表示されていることです。渋谷駅側からのナンバリングをたどっていくと、かつての路線の流れを頭の中に描くことができ、都市の地層を覗き込むような独特の感覚が味わえます。鉄道に詳しくない人でも、現役時代の鉄道現場の空気を肌で感じられる仕掛けです。
東横線で実際に使われた枕木の再利用
遊歩道沿いには、東横線で実際に使用されていた枕木が再利用されています。土留めとして地面に埋め込まれていたり、施設のサインや案内板の素材として活用されたりと、その使い方は多彩です。年季の入った木材の質感が、新しい遊歩道に独特のぬくもりと歴史的な重みを加えています。線路を支えていた枕木が、今度は遊歩道を歩く人々を支える素材として生まれ変わるという、粋な再活用が見どころとなっています。
かまぼこ屋根と目玉壁の再現
旧渋谷駅のシンボルだった「かまぼこ屋根」と「目玉壁」は、渋谷ストリームの国道246号オーバーパスデッキ部分に再現されています。かまぼこ屋根とは、1964年の改装で取り付けられたアーチ型の屋根のことで、半円筒形のアーチが列を成す独特のデザインは、かつての渋谷駅を象徴する風景でした。一方の目玉壁は、丸窓が並んだ特徴的な壁面を指し、旧渋谷駅独特のデザイン要素として親しまれていました。これらを現代によみがえらせることで、2013年に廃止された旧渋谷駅の雰囲気を体感できる空間が生まれています。
旧並木橋駅ホームをモチーフにしたオブジェ
C区間の並木橋付近には、「旧並木橋駅ホーム」をモチーフにしたオブジェが設置されています。並木橋駅は、東横線の開業と同時に1927年(昭和2年)に開設された駅で、渋谷駅から約500メートルの地点、渋谷川沿いの相対式2面2線の高架駅でした。当時の駅周辺には青山学院や実践女学園など多数の学校が集まっており、生徒たちの通学で賑わっていたといいます。
しかし1946年(昭和21年)に駅舎が焼失し、廃駅となりました。開業からわずか20年足らずで消えた「幻の駅」とも呼ばれるこの並木橋駅の記憶を、現在のオブジェが受け継いでいます。オブジェは一段高い構造になっており、ステージとしても使える仕様で、イベント時には「幻のホーム」が新たな舞台として再び生命を得る場面も見られます。
渋谷川の再生:暗渠から地上に戻った水辺空間
渋谷リバーストリートのもう一つの核となるテーマが、渋谷川の再生です。渋谷川はかつて、この一帯を流れる清流として知られていました。童謡「春の小川」の舞台になったとも言われ、豊かな自然環境を育んでいました。かつて渋谷の谷底には水田が広がり、周囲の丘陵から清水が湧き出すのどかな風景が広がっていたとされています。
しかし都市化と高度経済成長の波の中で、渋谷川は大きく変容しました。戦後の急速な経済発展に伴い、流域に工場や住宅が急増し、生活排水や工場廃水が流れ込むようになります。渋谷川はかつての清流からかけ離れた、汚れた川へと姿を変えていったのです。
さらに、1964年の東京オリンピック開催を機に都市景観の整備が加速します。世界に「近代都市・東京」を誇示するため、「臭い、汚い、暗い」とされていた川は地下に隠されることになりました。1960年代から1970年代にかけて、渋谷川の上流部は次々と暗渠化され、川の上に道路が設けられました。こうして渋谷川は長い年月の間、地下に潜ったまま都市の表舞台から消えていきました。
渋谷ストリームの整備にあたり、東急は渋谷区とともに渋谷川の再生に取り組みました。具体的には、東京都の「清流復活事業」と連携し、落合水再生センターで高度処理された再生水を渋谷川に流すことで、かつての川の流れを地上に取り戻しました。再生水の放流地点も渋谷ストリーム近傍に変更され、渋谷ストリームから並木橋までの区間に川沿いの遊歩道として整備されたのが、渋谷リバーストリートです。
渋谷ストリームに面した川の護岸には「壁泉」が設置されており、壁面を伝って水が流れ落ちる演出が施されています。これによりかつての川のせせらぎを彷彿させる水辺の景観が生まれ、訪れる人々に潤いと癒やしを提供しています。川沿いには木々も植栽されており、緑と水が織り成す都市の中のオアシスとなっています。
渋谷リバーストリート ウォーキングコースの区間別ガイド
渋谷リバーストリートのウォーキングコースは、スタートから終点まで無理なく歩ける平坦な道が続きます。区間ごとに表情が異なるため、それぞれの特徴を押さえて歩くと楽しみが広がります。
スタート地点:渋谷ストリーム・稲荷橋
ウォーキングの起点は、JR渋谷駅新南口から徒歩すぐの場所にある渋谷ストリームです。渋谷ストリームはオフィス・商業・ホテルが一体となった複合施設で、渋谷川に面したテラスから川の流れを眺めることができます。稲荷橋広場はイベントスペースとしても活用されており、週末にはマルシェや音楽イベントが開催されることもあります。まずここで渋谷川の水辺景観を楽しみながら、ウォーキングの準備を整えましょう。
A区間:金王橋〜八幡橋(鉄道遺産と壁泉が集まるエリア)
稲荷橋を渡ったところから始まるA区間は、渋谷川と旧線路跡が最も近く重なるエリアです。東横線の高架橋を支えていた支柱のオブジェが点在しており、保線ナンバリングが刻まれた支柱を探しながら歩く楽しみがあります。壁泉もこの区間の見どころで、護岸を伝い落ちる水の音が心地よく響きます。金王橋と八幡橋を結ぶこの区間では、両橋の上から渋谷川を見下ろすことができ、水辺の景色を楽しみながら歩くのに適した区間です。
B区間:八幡橋〜徒歩橋(緑とアートを満喫するエリア)
B区間は緑の植栽が印象的なエリアです。桜をはじめとする季節の木々が植えられており、春の花見、夏の新緑、秋の紅葉まで、四季折々の風景が楽しめます。「唇のオブジェ」として知られるパブリックアートもこの付近に設置されており、くちびるの形をした印象的なアートにはベンチ機能が組み込まれています。ひと休みしながら景色を眺めたり、写真撮影スポットとして利用したりと、使い方はさまざまです。このオブジェは渋谷の新たな待ち合わせスポットとしても人気を集め、若い世代を中心に話題となっています。
C区間:徒歩橋〜並木橋・渋谷ブリッジ(幻の駅とキッチンカーのエリア)
C区間は遊歩道の終盤で、落ち着いた雰囲気のなかを歩く区間です。この区間にはランチタイム限定でキッチンカーが並ぶ「ネオ屋台村」が開設されており、食事を楽しみながら散策することができます。また、旧並木橋駅のホームをモチーフにしたオブジェがあり、幻の駅の記憶に思いを馳せられます。終点の渋谷ブリッジは、渋谷区東一丁目にある施設で、子育てや地域コミュニティの拠点として機能しています。渋谷ブリッジまで歩いたあとは、そのまま恵比寿・代官山方面へと散策を続けることもできます。
渋谷リバーストリートの見どころと楽しみ方のポイント
渋谷リバーストリートをより深く味わうために、知っておきたいポイントを紹介します。
鉄道ファンへのおすすめポイント
かつての東急東横線のファンや鉄道史に興味がある人には、高架橋支柱のナンバリングや枕木の再利用部分を丁寧に観察することをおすすめします。専門的な鉄道知識がなくても、これらの遺産が静かに語りかけてくる「消えた鉄道の記憶」を感じ取ることができます。旧並木橋駅ホームのオブジェでは、1927年から1946年までというわずか20年弱の歴史を持つ幻の駅に思いをはせるのもよい時間の過ごし方です。
加えて、渋谷ストリームの国道246号オーバーパスデッキでは、かまぼこ屋根と目玉壁の再現を確認できます。旧渋谷駅を知る世代にとっては懐かしさを、知らない世代にとっては新たな発見をもたらしてくれるスポットです。
写真撮影のベストスポット
壁泉が設置された渋谷ストリーム側の護岸は、水と緑と高架橋の組み合わせが写真映えする絶好のスポットです。早朝や夕方は光の当たり方が変わり、昼間とは異なる情景を楽しめます。夜間はライトアップされ、水面に反射する光が幻想的な雰囲気を演出します。
唇のオブジェも写真スポットとして人気が高く、SNSで多くの投稿が見られます。赤いアートと緑の植栽のコントラストが印象的で、渋谷のユニークな一面を切り取った一枚が撮れます。
四季ごとの楽しみ方
春は桜並木の花見、夏は新緑の木陰でひと休み、秋は紅葉と川面のコラボレーション、冬はクリスマスのイルミネーションと、季節に応じた楽しみ方があります。同じルートでも季節が変われば景色が変わり、何度歩いても新たな発見がある点が、このウォーキングコースの奥深さです。
渋谷リバーストリートの基本情報まとめ
利用にあたって知っておきたい基本情報を、以下の表にまとめました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 所在地 | 東京都渋谷区渋谷三丁目〜東一丁目(渋谷川沿い) |
| 最寄り駅 | JR・東急・東京メトロ 渋谷駅(新南口から徒歩すぐ) |
| 全長 | 約600メートル |
| 区間 | A区間(金王橋〜八幡橋)/B区間(八幡橋〜徒歩橋)/C区間(徒歩橋〜並木橋) |
| 所要時間 | ゆっくり歩いて20〜25分程度 |
| 入場料 | 無料 |
| 営業時間 | 24時間開放(一部施設・イベントスペースを除く) |
| 開業時期 | 2018年9月 |
渋谷川と「春の小川」:失われた清流の記憶をたどる
渋谷川の物語をひもとくとき、多くの人が思い浮かべるのが唱歌「春の小川」です。「春の小川はさらさら行くよ」という歌い出しで知られるこの唱歌は、1912年(明治45年)に発表されたもので、渋谷川の支流である河骨川(こうほねがわ)がモデルとされています。
河骨川は、現在の渋谷区代々木四丁目・五丁目付近を流れていた小川で、コウホネ(河骨)という水草が川面に咲いていたことが名前の由来と言われています。作詞者が暮らしていた代々幡村の近くを流れており、メダカが泳ぎ、スミレやレンゲが咲く、のどかな水辺の風景が広がっていたとされます。
渋谷川は、この河骨川や宇田川など複数の支流を合わせながら南東へ流れ、やがて古川と合流して東京湾へと注ぎます。全長12キロメートルほどの川ですが、その水系はかつての渋谷の地形や自然を物語る重要な存在です。
渋谷という地名は、この一帯が「渋い谷」、すなわち水はけの悪い低湿地だったことに由来するという説があります。周囲を丘陵に囲まれた谷状の地形は、多くの湧水を生み出し、渋谷川やその支流を育てていました。
しかし急速な都市化と高度経済成長の波は、この豊かな水の流れを根本から変えてしまいました。河骨川もまた、戦後の生活排水による悪臭の問題から、1964年の東京オリンピックを機に暗渠化され、その姿を地下に隠しました。「春の小川」が詠んだ清流は、半世紀以上にわたって人々の目から消えていたのです。
渋谷ストリームと渋谷リバーストリートの整備において、東急と渋谷区が渋谷川の再生に力を入れた背景には、こうした失われた清流への郷愁と、都市に水辺を取り戻したいという強い思いがありました。再生水という形ではあるものの、再び地上に流れる水を見ながら歩くとき、「春の小川」が詠んだ水辺の記憶が遠い過去から蘇るような心持ちになるはずです。
渋谷ブリッジと周辺エリアへの散策プラン
渋谷リバーストリートの終点、渋谷ブリッジもまた鉄道の記憶を宿す場所です。渋谷ブリッジは旧東横線の線路のカーブに合わせて建てられた複合施設で、2018年9月に渋谷ストリームと同時期に開業しました。
施設内にはオフィスや店舗が入り、地域コミュニティの拠点としての役割も担っています。渋谷川をまたぐようにして建つその姿は、旧高架橋の存在感を継承するかのような力強さを感じさせます。
渋谷ブリッジを過ぎると、そのまま代官山・恵比寿エリアへと散策を続けることができます。代官山は、渋谷のすぐ隣に位置しながら、落ち着いたおしゃれな街並みが広がるエリアです。東急東横線の代官山駅を中心に、ブティックやカフェ、書店などが集まり、渋谷の喧騒とは一味違うゆったりした雰囲気が漂います。
代官山から明治通りを南へ進むと恵比寿に至ります。恵比寿ガーデンプレイスを中心に、洗練されたレストランやショップが集まるこのエリアは、渋谷リバーストリートからの散策コースの締めくくりとして最適です。
渋谷ストリームから渋谷リバーストリートを歩き、渋谷ブリッジを経て代官山・恵比寿へと抜ける全体のコースは、距離にしておよそ5〜7キロメートル。渋谷の鉄道遺産と水辺の景観を楽しみ、洗練されたカフェでひと息ついて、恵比寿のレストランで食事を楽しむ——そのような充実した一日のウォーキングプランとして、渋谷リバーストリートを位置づけることができます。
渋谷リバーストリートと「シブヤウォーキングマップ」の連携
渋谷区では健康づくりを目的に「シブヤウォーキングマップ」を作成しており、渋谷リバーストリートもその推奨ルートの一つとして紹介されています。区が提供するウォーキングマップを片手に渋谷リバーストリートを歩けば、健康づくりと歴史探訪を同時に楽しめます。
東急電鉄も公式サイト上で渋谷リバーストリートの紹介コンテンツを充実させており、旧東横線にゆかりのある写真や情報が公開されています。沿線の歴史に興味がある人は、事前に公式サイトの情報をチェックしてから訪れると、より深く楽しめます。
渋谷リバーストリートは、鉄道の廃線跡という「喪失の場所」を、新たな文化・コミュニティの拠点として再生させた成功例として、都市計画や景観設計の観点からも高く評価されています。ただ遊歩道を整備するだけでなく、鉄道遺産を丁寧に残し、川の再生とセットで考えることで、単なる「跡地利用」を超えた豊かな公共空間が生み出されました。
渋谷リバーストリートに刻まれた東横線と渋谷川の二つの記憶は、渋谷という街の歴史を学ぶための野外博物館とも言えるでしょう。ガイドブックに載りにくい渋谷の「裏の顔」を歩いて発見したい人にとって、渋谷リバーストリートは見逃せない場所です。
渋谷再開発の中で渋谷リバーストリートが果たす意義
渋谷では2010年代以降、大規模な再開発が続いています。渋谷スクランブルスクエア、渋谷フクラス、渋谷パルコの刷新など、多くの施設が生まれ変わりました。こうした再開発の中で、渋谷リバーストリートは「開発によって失われるものを最大限に保存・再活用する」という姿勢の象徴的な事例となっています。
かつての東横線の遺産を単に撤去するのではなく、遊歩道のデザインに組み込むことで、新しい価値を生み出しています。暗渠化されていた渋谷川を復活させ、都心に水辺の空間を取り戻したことは、環境面でも都市デザイン面でも評価できる取り組みです。
渋谷リバーストリートは、ただ「おしゃれな散歩道」であるだけでなく、都市の記憶を継承し、歴史と現代をつなぐ文化的空間としての役割を担っています。廃線となった線路跡が新しい緑道として市民に開放され、暗渠化された川が再び地上に姿を現す——そのような都市の「再生」の物語を、歩きながら感じることができるのが、渋谷リバーストリートの真の魅力と言えるでしょう。
都市開発の波にさらされながらも、歴史的な資産を大切に残そうとする取り組みは、今後の都市づくりのモデルケースとしても注目されています。渋谷という変化の速い街で、時代を超えて記憶を紡ぐ場所が生まれたことは、渋谷という街の懐の深さを示しています。
渋谷リバーストリートに関するよくある疑問
渋谷リバーストリートを訪れる前に気になる点について、自然な形で整理しておきます。
まず、入場料についてですが、渋谷リバーストリート自体は無料で開放されており、24時間いつでも歩くことができます。商業施設やイベントスペースは個別の営業時間が設定されていますが、遊歩道そのものに利用制限はありません。
所要時間については、ゆっくり歩いた場合で20〜25分程度が目安です。途中で鉄道遺産を観察したり、写真を撮ったり、唇のオブジェで休憩したりすることを考えると、1時間程度の散策時間を確保すると余裕を持って楽しめます。
最寄り駅はJR・東急・東京メトロ渋谷駅で、新南口から渋谷ストリームを経由してすぐにアクセスできます。代官山方面からアプローチする場合は、東急東横線代官山駅から渋谷ブリッジを目指す形で、逆方向に歩くことも可能です。
雨天時の利用については、屋根のない遊歩道のため傘が必要ですが、渋谷ストリームや渋谷ブリッジなどの屋内施設と組み合わせれば、悪天候の日でも散策を楽しめます。冬場の夜間はライトアップが行われ、水面に反射する灯りが幻想的な雰囲気を作り出します。
まとめ:渋谷リバーストリートで体感する鉄道遺産と水辺再生の物語
渋谷リバーストリートは、東急東横線の廃線跡と渋谷川の再生という二つの歴史的プロセスが交差した、ユニークな都市空間です。85年以上にわたって渋谷の空を走り続けた東横線の記憶が、支柱のオブジェや枕木の再利用という形で今も息づいています。一方で、かつてはドブ川と呼ばれた渋谷川が清流として復活し、都市の水辺に新たな命が吹き込まれました。
全長600メートルという短い距離の中に、鉄道遺産、水辺の景観、パブリックアート、そして豊かな植栽が凝縮されたこのウォーキングコースは、渋谷の奥深さを再発見するための絶好の場所です。旧並木橋駅の幻のホーム、かつて東横線を支えた高架橋の支柱、そして再生した渋谷川の流れ——これらが一本の遊歩道でつながっているのは、まさに渋谷という街の重層的な歴史の表れと言えるでしょう。
唱歌「春の小川」が詠んだ清流のように、かつて失われた水辺の記憶を取り戻した渋谷川。85年の輸送の歴史を終えた東横線の高架橋が、新たな生命として蘇った遊歩道。この二つの「再生の物語」は、現代の渋谷において静かに、しかし力強く語りかけてきます。
渋谷を訪れる際には、スクランブル交差点の喧騒から少し離れて、この静かな水辺の道をゆっくりと歩いてみてください。都市の歴史と自然の再生が織り交ざった渋谷リバーストリートは、一度歩いたら忘れられない体験を与えてくれるはずです。









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