信飛トレイル完全ガイド|松本から高山へ日帰りで楽しむウォーキングコース

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信飛トレイルは、長野県松本市と岐阜県高山市を結ぶ全長117キロメートルのロングトレイルで、日帰りでも楽しめるウォーキングコースとして2025年7月14日に正式オープンしました。「信飛」とは信州(長野県)と飛騨(岐阜県)の頭文字を組み合わせた名称で、日本アルプスの恵みで育まれた二つの歴史ある街を、かつて人々が歩いて往来していた古道でつなぐという壮大なプロジェクトから誕生したトレイルです。全コースを踏破するには5泊6日の日程が推奨されていますが、6つのセクションに分かれているため、日帰りや1泊2日など自分の体力や時間に合わせた楽しみ方が可能となっています。

この記事では、信飛トレイルの概要から各セクションの詳細、日帰りで楽しむためのおすすめコース、松本・高山へのアクセス方法、必要な装備まで、初めてトレイルに挑戦する方にもわかりやすく解説していきます。国宝松本城から飛騨高山の古い町並みまで、自然と歴史を堪能できる信飛トレイルの魅力をお伝えします。

目次

信飛トレイルとは何か

信飛トレイルとは、長野県松本市の国宝松本城太鼓門を起点とし、岐阜県高山市の桜山八幡宮の大鳥居がある宮前橋を終点とする、全長117キロメートルのロングトレイルです。途中には徳本峠、中尾峠、平湯峠の三つの峠越えがあり、中部山岳国立公園に指定された飛騨山脈(北アルプス)を歩いて横断するという、日本でも類を見ない体験ができます。

このトレイルの最大の特徴は、自然景観、里山、歴史、日本の登山文化など、それぞれに特長のある6つのセクションを設けていることです。市街地を歩く初心者向けのセクションから、本格的な登山装備が必要な山岳区間まで、難易度も魅力も様々に設定されています。コース中の最高地点は中尾峠で標高2097メートルに達し、高低差は日本一というアルプス越えの道となっています。

歩ける期間は、焼岳登山道が開通している5月中旬から10月中旬までとなっています。冬季期間は登山道が通行止めになるため、訪問時期には十分な注意が必要です。また、信飛トレイルには火山や増水する河川、崩落のリスクがある区間も存在します。山岳地帯を含むため天候が急変することもあり、余裕を持ったスケジュールを立て、リスク管理を意識することが重要です。

信飛トレイル6つのセクション詳細ガイド

信飛トレイルは全6セクションで構成されており、それぞれ異なる魅力と難易度を持っています。日帰りウォーキングを計画する際は、各セクションの特徴を理解したうえで、自分の体力や経験に合ったコースを選ぶことが大切です。

セクション1:松本城から島々までの松本平の道

セクション1は、岳都松本から島々へ続く田園と山岳の道です。歩行距離は約22キロメートル、参考タイムは約8時間、最高標高は780メートル、最低標高は574メートルとなっています。このセクションは市街地を通るルートであるため、初心者でも気軽に挑戦できるのが最大の魅力となっています。

松本城や道祖神で歴史を感じながら、梓川沿いの松本平を横断し、遠くの北アルプスの山並みを見渡す広く清々しい景色を堪能できます。見どころとしては、北アルプスの伏流水を利用した藍染工房や、古くから街道を歩いてきた旅人に提供された歴史ある新橋飴などのショップ巡りがあります。道祖神や山の恵みである水にまつわる話を聞きながら、楽しいウォーキングが体験できます。

信飛トレイルでは、このセクション1を舞台にした初心者向けの日帰りプログラムが開催されています。世界中のロングトレイルを歩いてきた経験豊富なガイドが、装備やペース配分、休憩の取り方などを実体験に基づいて解説してくれます。これからロングトレイルを歩いてみたい方や、将来的にスルーハイクを目指す方にとって、信飛トレイルの魅力とロングトレイルの歩き方を体験できる絶好の機会となっています。

セクション2:島々から上高地への徳本峠越え

セクション2は、日本の近代登山の父であるウォルター・ウェストンが愛したクラシックトレイルを辿り、徳本峠を越えて上高地へ至るルートです。徳本峠(とくごうとうげ)は標高2135メートルに位置し、古来より上高地への主要なアクセスルートとして利用されてきました。

昭和8年(1933年)に釜トンネルが竣工するまで、上高地に入るためのメインルートであり、ウォルター・ウェストンや芥川龍之介など、数々の偉人もこの峠を越えました。江戸時代には松本藩による上高地での伐採事業が行われ、200人余りの杣人がこの道を往来しました。また、上高地に温泉が発見され、文政年間(1818年から1830年)には湯屋が開業し、入湯客もこの道を通りました。

このセクションは本格的な登山ルートであり、沢の渡渉、はしごや鎖場などの難所もあります。山慣れた登山者向けの道であるため、適切な装備と経験が必要です。なお、現在セクション2の島々から徳本峠間は通行止めとなっている区間があるため、最新情報の確認が必須となっています。

セクション3:上高地から中尾高原への焼岳・中尾峠越え

セクション3は、清流美しい上高地から活火山の焼岳、中尾峠を越えて、かつての鎌倉街道・飛騨新道の関所があった奥飛騨の中尾高原へと至るルートです。焼岳は標高2455メートルの山で、日本百名山にも選ばれている北アルプス唯一の活火山です。山頂付近からは今も噴気が上がり続けており、火山活動を間近に感じることができます。

中尾峠は標高2097メートルで、信飛トレイル全コースの最高地点となっています。ここで北アルプスの主稜線を越え、長野県から岐阜県へと入ります。北アルプスらしい絶景が数多く存在する山岳区間のハイライトです。

焼岳への登山ルートとしては、上高地ルート、新中の湯ルート、中尾ルートなどがあります。上高地ルートでは、焼岳登山口から焼岳山頂まで約4時間かかります。ルートの核心部には梯子があり、角度は80度ほどで高度感を感じる場所があります。このセクションも本格的な登山ルートであり、登山届の提出が必要です。信飛トレイルに事前登録をすることで、長野県・岐阜県へ登山届として自動で提出される仕組みが整えられています。

セクション4:中尾高原から平湯への奥飛騨温泉郷巡り

セクション4は、奥飛騨温泉郷の複数の温泉地を経由して火山の恵みを感じながら、中尾高原から平湯へと歩くルートです。奥飛騨温泉郷とは、平湯、福地、新平湯、栃尾、新穂高の5つの温泉地の総称です。源泉は全部で140以上あり、温泉の湧出量は毎分3万リットル以上という湯量豊富な温泉郷となっています。露天風呂が110か所以上もあり、その数は日本一とも言われています。

このセクションでは、新穂高温泉(中尾)、栃尾温泉、新平湯温泉、福地温泉、平湯温泉と日本有数の温泉地を通過します。歩きながら温泉巡りができるのは、まさに信飛トレイルならではの楽しみです。平湯温泉は、乗鞍岳の北麓、標高約1230メートルの山中に開けた温泉地で、奥飛騨温泉郷の中で最も古い歴史を持ちます。武田信玄が飛騨に攻め入った時に、湯で傷を治す老猿を見て温泉を発見したという伝説が残されています。

新穂高温泉は、新穂高ロープウェイの起点として知られる温泉地です。二つのロープウェイを乗り継ぎ、標高2156メートルの山頂展望台からは西穂高岳、槍ヶ岳、笠ヶ岳などの北アルプスの絶景を360度の大パノラマで眺めることができます。

セクション5:平湯から丹生川への平湯街道

セクション5は、古くから平湯街道と呼ばれ、人々が温泉で疲れを癒す湯治へ向かう道として利用されてきたルートです。乗鞍岳中腹の平湯峠から田園地帯へ抜けていきます。この区間では、山岳地帯から里山へと景色が変化していく様子を楽しむことができます。標高が下がるにつれて、飛騨の豊かな農村風景が広がってきます。

セクション6:丹生川から高山・宮前橋への最終セクション

セクション6は、金森長近のもとで発展した飛騨高山の町へと向かう最終セクションです。高山は今もなお伝統的な町並みを残しており、江戸時代の面影を色濃く感じることができます。終点となる宮前橋は、桜山八幡宮の大鳥居がある場所で、117キロメートルの旅の終着点にふさわしい荘厳な雰囲気が漂っています。

日帰りで楽しむ信飛トレイルウォーキング

全長117キロメートルの信飛トレイルを完全踏破するには5泊6日の日程が必要ですが、セクションごとに分けて歩くことで日帰りでも十分に楽しむことができます。特に初心者におすすめなのがセクション1です。市街地を通るルートであり、松本城から出発して梓川沿いを歩きながら、北アルプスの雄大な景色を楽しむことができます。

セクション1お試しウォーキングツアーの詳細

公式のガイドツアーも開催されており、ロングトレイル入門として最適な内容となっています。セクション1のお試しウォーキングツアーは、参加費用10000円(ガイド費用、保険料、消費税を含む)で参加できます。集合は松本城太鼓門で8時30分、解散は新島々駅で17時頃となっています。

世界中のロングトレイルを歩いてきた経験豊富なスタッフが同行し、装備やペース配分、休憩の取り方などを実践的に学ぶことができます。これからロングトレイルを歩いてみたい方や、将来的にスルーハイクを目指す方にとって、基礎から学べる絶好の機会です。

日帰りウォーキングに適したコース選び

日帰りで信飛トレイルを楽しむ場合、自分の体力や経験に合わせたコース選びが重要です。登山経験がない方や、初めてトレイルに挑戦する方には、市街地を歩くセクション1が最適です。高低差が少なく、途中には休憩できるショップや施設もあるため、安心して歩くことができます。

一方、登山経験があり、本格的な山歩きを楽しみたい方には、上高地周辺のコースがおすすめです。ただし、セクション2やセクション3は本格的な登山装備と経験が必要となるため、十分な準備をしたうえで挑戦してください。特にセクション2の徳本峠越えは、沢の渡渉やはしご、鎖場などの難所があるため、山慣れた登山者向けの道となっています。

信飛トレイルへのアクセス方法

信飛トレイルの起点となる松本市と終点の高山市へは、様々な交通手段でアクセスすることができます。

飛行機でのアクセス

札幌、福岡、神戸などから信州まつもと空港への定期便があり、空港からバスまたはタクシーで松本駅までアクセスできます。遠方からの訪問者にとって、飛行機は効率的な移動手段となります。

高速バスでのアクセス

大阪(梅田)・なんば(OCAT)から京都駅八条口経由で高山濃飛バスセンターへ行くことができます。また、松本バスターミナルと高山濃飛バスセンター間の直通バスが運行されており、所要時間は約2時間30分です。信飛トレイルの起点と終点を結ぶ便利な移動手段として活用できます。

電車・路線バスでのアクセス

JR松本駅から松本電鉄上高地線で新島々駅へ行くことができます。新島々駅から上高地・乗鞍・高山方面への路線バスが運行されています。公共交通機関を利用することで、マイカーがなくても信飛トレイルを楽しむことが可能です。

駐車場と上高地へのアクセス

上高地は通年マイカー規制が行われているため、直接車でアクセスすることはできません。沢渡(さわんど)駐車場に車を駐車し、そこから上高地バスまたはタクシーで上高地へアクセスします(約30分)。岐阜県側からは平湯(あかんだな)駐車場を利用し、同様にバスやタクシーでアクセスします。マイカーで訪れる場合は、この点に注意が必要です。

信飛トレイル沿いの宿泊施設情報

日帰りでの利用だけでなく、宿泊を伴う本格的なトレイル体験を計画している方のために、信飛トレイル沿いの山小屋情報をご紹介します。

焼岳小屋の特徴と利用案内

焼岳小屋は標高2080メートルに位置する、信飛トレイル上で最も標高が高い宿泊施設です。1962年の噴火を経て再建されたこの小屋は、昔ながらのランプの灯りが温かい歓迎をしてくれる歴史ある宿です。収容人数は約25人程度と小さな山小屋で、照明はランプを使用しており、テレビはなく携帯電話の電波も入りません。まさに山の静寂を味わうことができる場所です。

宿泊料金は1泊2食付きで9000円、素泊まりで6500円となっています。シーズン中の宿泊は予約が必要です。焼岳小屋へは、上高地から、新中の湯口から、中尾口から、西穂高山荘からと、東西南北のコースがあります。上高地からのコースは途中ハシゴ場もありますが、約2時間半で小屋へ到着できます。

徳本峠小屋の歴史と魅力

徳本峠小屋は2023年に営業開始100年(本館小屋百歳)を迎えた歴史ある山小屋です。大正から昭和、平成、令和と4世代100年の歴史を刻んできました。2010年には新館が建てられ、木目が明るく清潔感あふれる宿泊施設として親しまれています。特に夕食後にアルコールランプが灯される食堂は、山の夜を暖かく照らす心地良い空間です。穂高連峰の壮大な眺めが、この小屋の大きな魅力の一つとなっています。

新館の定員は25名、旧館に5名の合計30名です。宿泊料金には学割があり、大学生は3000円割引、高校生は4000円割引、中学生は5000円割引、小学生は6000円割引となっています。また若者割として20代は1000円割引、30代は500円割引もあります。決済は現金のみとなっています。徳本峠付近には水場がなく、明神側に10分ほど下ったところにある水場が最も近いです。

信飛トレイルの起点・松本城の魅力

信飛トレイルの起点となる松本城は、長野県松本市に位置する国宝の名城です。現存する五重六階天守の中では日本最古の国宝の城として知られ、姫路城、彦根城、犬山城とともに4つの国宝の城のひとつに数えられています。

松本城の歴史

松本城の歴史は、1504年(永正元年)に前身となる「深志城」を築城したことに始まります。1582年(天正10年)に小笠原貞慶により深志城から松本城へと改名されました。その後、小笠原氏、石川氏、戸田氏など城主が移り変わり、およそ500年以上もの歴史を持つ古城となりました。

1590年(天正18年)、豊臣秀吉の家臣・石川数正が松本城に入城し、1593年から1594年の間に城郭や城下町の整備工事に着手しました。息子・石川康長が大天守、乾子天守、渡櫓などを手掛けました。1936年(昭和11年)に国宝指定を受け、1952年(昭和27年)には天守、乾子天守、渡櫓、辰巳附櫓、月見櫓の5棟が国宝に指定されました。

松本城の見どころ

松本城の見どころとしては、異なる時代の天守や櫓が複合された連結複合式天守があります。このような構造の城は日本ではこの松本城だけです。戦国時代に造られた3棟には、鉄砲や弓矢を放つための鉄砲狭間や弓狭間が115か所も設置されており、1階には敵を標的とした石落が11か所もあります。

辰巳附櫓と月見櫓は江戸時代に増築されたもので、戦いのない時代に造られたことから、石落や武者窓といった戦いを意識した装備はありません。戦国時代と江戸時代、それぞれの時代背景に沿って造られた建築物を見比べることができるのも松本城の魅力です。

毎日、日没から22時まで松本城のライトアップが行われており、暗闘に照らされる白と黒の城は荘厳な雰囲気に包まれます。観覧料は大人700円、小・中学生300円、小学生未満無料です。開場時間は午前8時30分から午後5時まで(最終入場は午後4時30分まで)で、年末を除き無休となっています。

信飛トレイルの終点・飛騨高山の見どころ

信飛トレイルの終点となる飛騨高山は、岐阜県にある人気の観光地で、歴史的な町並みと豊かな自然に囲まれた魅力的なエリアです。

飛騨高山の古い町並み

飛騨高山の古い町並みは、江戸時代の城下町、商人町として発展した歴史的な地区です。上町、下町の三筋の通りは国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されており、江戸時代の面影を色濃く残しています。「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン」で必見の観光地として三つ星を獲得しており、「飛騨の小京都」とも称されています。

特徴的な出格子の連なる美しい町並み、軒下を流れる清らかな用水、杉の葉を玉にした「酒ばやし」が下がる造り酒屋など、風情ある景観が広がります。まるで江戸時代にタイムスリップしたかのようなノスタルジックな雰囲気を味わうことができます。

高山陣屋と朝市

高山陣屋は、江戸幕府が飛騨国を直轄領とした1692年から176年もの間、飛騨統治が行われた役所です。江戸時代の陣屋の主要な建築物が残る唯一の遺構であり、「御役所」や「北の御白洲」、「御蔵」等を見学できます。

朝市も高山の名物で、陣屋前朝市では農産物や果物、味噌や餅などが売られ、毎朝7時頃から正午まで開催されています。宮川朝市も宮川沿いで毎朝開かれています。

飛騨高山のグルメと工芸品

グルメとしては、飛騨牛の握りや串焼き、高山ラーメン、みたらし団子などの名物が楽しめます。古い町並みには7軒の造り酒屋が軒を連ねており、地酒も堪能できます。伝統工芸品として、飛騨春慶塗、一位一刀彫、渋草焼などを扱う店も並んでいます。

上高地の魅力と散策コース

信飛トレイルのセクション2とセクション3の接点となる上高地は、北アルプスの山々に囲まれた標高約1500メートルの山岳景勝地です。雄大な穂高連峰や清らかな梓川の流れ、美しい湿原や森林が広がり、四季折々の自然を身近に感じられる場所です。

上高地は荒々しい山々とは対照的に、山あいにある細長い平地のため、特別な装備なしでも気軽にハイキングを楽しめるのが特徴です。代表的な散策コースである大正池から河童橋までは約1時間20分のお手軽ハイキングで、初心者でも上高地の王道スポットを巡ることができます。随所に木道が設けられ高低差も少ないので、トレッキング初心者にも適しています。

大正池は、北アルプスで唯一の火山・焼岳の噴火によって吹き出した土石流が梓川をせき止めたことで突如としてできた池です。枯れた木々が神秘的な景観をもたらしており、風の弱い日には水面に穂高連峰の姿が映し出されます。

河童橋周辺は、空いた時間に気楽に散策したい方、上高地の景色をのんびりと味わいたい方におすすめのエリアです。河童橋から小梨平キャンプ場は1キロメートル以内・所要時間約10分から20分、河童橋から岳沢湿原は片道約1キロメートル・所要時間15分です。岳沢湿原は、立ち枯れた木々のシルエットと澄んだ水が美しい湿原で、湿原の上には展望ウッドデッキが設置されていて、のんびり散策できます。

松本と高山を結ぶ歴史街道の背景

信飛トレイルのルートには、江戸時代から続く歴史街道が息づいています。野麦街道(飛騨道)は、古くから飛騨と松本を結ぶ重要な道筋でした。江戸時代、松本と飛騨高山を結ぶ道は信州側では一般に「ひだみち」とよばれ、いくつかのルートがありました。松本藩が編さんした「信府統記」には、「松本ヨリ飛騨高山ヘノ道程」として、松本から藪原、寄合渡、野麦峠を経て高山にいたる道が本道として記されています。

江戸時代の中頃以降は、飛騨道はもっぱら野麦峠を通るようになりました。標高1672メートルの野麦峠は野麦街道最大の難所で、冬は積雪のため峠を越えることが困難となり、およそ10キロメートルの峠越えの旅程に1日を費やしたほど厳しい道のりでした。江戸時代末期には峠に「お助け小屋」とよばれる避難所も設けられました。

江戸街道(飛騨側の呼称)は、飛騨と信州を結び、さらに鎌倉・江戸へと続く道として、国鉄高山本線が開通するまで飛騨で最も重要な道の一つでした。物資の流通も盛んで、信濃からは米や清酒などが、飛騨からは鰤(ブリ、飛騨鰤とよばれた)、塩等の海産物や曲物、白木などが運ばれました。金森氏の領国支配と経済政策によって整備されたこれらの街道を通じて、越中、京都、奈良、江戸など各地の物資や人材、文化の移動により高山に富がもたらされるとともに、高山城下町が各街道の中継地点として大きな役割を担いました。

ウォルター・ウェストンと徳本峠の歴史

信飛トレイルのセクション2で越える徳本峠は、日本の近代登山史において重要な意味を持つ場所です。英国人宣教師ウォルター・ウェストン(1861年から1940年)は、登山家として日本各地の名峰を制覇し、「日本の近代登山の父」と称されています。明治24年(1891年)に上高地を訪れ、山案内人・上條嘉門次とともに北アルプスに挑みました。明治29年(1896年)には著書「日本アルプスの登山と探検」の中で上高地の魅力を世界に称賛しています。

1877年(明治維新から11年後)には、「日本アルプス」の名付け親であるウイリアム・ガーランドがウェストンに先駆けて徳本峠にやって来ています。1893年の夏、ウェストンは嘉門次を引き連れ、徳本峠を越え穂高に登りました。ウェストンは延べ11回も徳本峠を往復したと伝えられています。

毎年6月の第一土曜日・日曜日には、夏山シーズンの到来を告げる「ウェストン祭」が上高地で開催されています。土曜日には、かつてウェストンも歩いた島々谷から徳本峠を越え、上高地までの記念山行が行われています。この記念山行はウェストン生誕100年の第15回(1961年)から続けられています。

信飛トレイルに必要な装備と持ち物

信飛トレイルを歩くにあたっては、セクションによって必要な装備が大きく異なります。事前に行くセクションを確認し、適切な装備を準備することが安全なトレイル体験につながります。

市街地ウォーキング向けの装備

セクション1のような市街地を歩くルートでは、ウォーキングシューズと動きやすい服装があれば十分です。ただし、長距離を歩くため、足に合った靴を選ぶことが重要です。約22キロメートル、8時間の行程となるため、クッション性のあるシューズを選ぶと足への負担を軽減できます。

山岳区間向けの本格登山装備

セクション2、3の山岳区間では、本格的な登山装備が必要となります。トレイルランニングや登山の必須アイテムとしては、トレイルシューズ、ウェア、レインウェア、バックパック、補給食、携帯電話などが挙げられます。

ザック(バックパック)は、日帰りの山行では8リットルから12リットルサイズが汎用性が高く、最初の一着としておすすめです。トレイルランに使用するザックは主に「ベスト型」と「リュック型」の2種類があり、ベスト型は前部にポケットが設けられており、ザックを下ろさないで使用できて便利です。

レインウェアは必須アイテムです。山の天気、特に標高の高い山での天気は変わりやすいため、天気予報が完全に晴れマークでも常にレインウェア(上着)は必ず持っていくべきです。レインウェアは雨の時だけでなく、風が強いときや寒い場合でも防寒着として着用できます。

シューズについては、トレイルコースは土や岩の上、木の根っこ、水溜りなど、コンクリート道路とは異なる特性の道となっています。滑りやすかったり、足に石や小枝が当たったりする危険な要素があるため、グリップ力が高く、つま先や足回りを保護できるトレイル用シューズを選ぶことが重要です。

あると便利な補助アイテム

あると便利なグッズとしては、地図・コンパス、ホイッスル、医療用キット、キャップやサングラス、ヘッドライト、手袋などがあります。特にホイッスルは遭難したときに命を救う可能性があり、荷物にもならないので必ず持っておくことをおすすめします。また、毒を持った虫がいることもあるため、ポイズンリムーバーを応急処置用として持っておくとよいでしょう。

その他、絆創膏などの救急用品や常備薬、健康保険証(コピーも可)も必要です。必要に応じて、下着の替え、サングラス、ザックカバー(防水対策)、タオル、日焼け止め、虫除け、トイレットペーパーなども用意するとよいでしょう。

信飛トレイルを歩く際の注意事項とマナー

信飛トレイルを安全に楽しむためには、いくつかの注意事項とマナーを守ることが重要です。

登山届の提出

セクション2、3は山岳地帯のため、登山届が必要です。信飛トレイルに事前登録をすることで、長野県・岐阜県へ登山届として自動で提出される仕組みがあります。この仕組みを活用することで、万が一の際の捜索活動に役立てることができます。

最新情報の確認

信飛トレイルには火山や増水する河川、崩落のリスクがある区間があります。最新の情報をチェックして、安全に歩くことを心がけてください。山岳地帯を含むため天候が急変することもあり、余裕を持ったスケジュールを立て、リスク管理を意識することが重要です。

現在、島々から上高地の徳本峠越えの登山道は通行止めとなっている区間があるため、完全踏破はできない状況です。この間はバスなど公共交通機関の利用が必要となります。出発前に最新の通行情報を確認することが重要です。

適切な装備と体力管理

急峻な登山道や長距離歩行を伴う区間があるため、適切な装備を準備することが必要です。特に山岳区間では、経験と体力に見合ったルート選択をすることが安全につながります。無理のない計画を立て、天候や体調に応じて柔軟に予定を変更する勇気も大切です。

信飛トレイルが持つ多様な魅力

信飛トレイルの最大の魅力は、日本アルプスを歩いて横断できるという点にあります。117キロメートルの道のりを歩ききることで、信州松本と飛騨高山という二つの歴史ある街を、かつて人々が歩いて往来していた古道で結ぶ体験ができます。

また、セクションごとに異なる魅力を持っているのも特徴です。市街地の歴史散策から始まり、クラシックルートと呼ばれる徳本峠越え、活火山・焼岳を経由する北アルプス横断、そして奥飛騨温泉郷での温泉巡り、さらには飛騨高山の古い町並みへと至ります。自然、歴史、文化、温泉と、多様な魅力が一本のトレイルに凝縮されています。

初心者からベテランまで、様々なレベルのハイカーが楽しめる点も魅力です。市街地を歩くセクション1は初心者向けの日帰りコースとして最適であり、一方でセクション2、3は経験豊富な登山者でも満足できる本格的な山岳ルートとなっています。

地域に精通した経験豊富なガイドによるツアーも開催されており、トレイルを縦走するための適切なアドバイスを受けることもできます。ロングトレイルに挑戦したい初心者にとって、ガイド付きツアーは安心して参加できる良い機会となっています。国宝松本城、徳本峠、上高地、焼岳、奥飛騨温泉郷、飛騨高山の古い町並みと、日本を代表する観光地を歩いてめぐる体験は、他では得られない貴重なものとなるでしょう。

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